プロローグ

株式会社ボーダレス・ジャパンのソーシャルビジネスの一つであるバングラデシュの革工場「BLJ Bangladesh Corporation」

2013年、バングラデシュの雇用創出のために現地に設立され、同社の革小物ブランド「Business Leather Factory」「Borderless Factory」「JOGGO」の商品製造を一手に手掛けている。現在、300名を超える同工場では、どのような採用理念があるのだろうか。

人事担当アミヌル・イスラムさん(通称アミンさん)に、同じ工場で働く原口瑛子がインタビューを行った。

アミンさん
笑顔が素敵なアミンさん

7つのポジショニング

原口※以下原)アミンさん、今日はインタビューの時間を頂き、ありがとうございます。

アミン※以下ア)いえいえ、こちらこそありがとうございます。 日本の方々にバングラデシュや工場のことを伝えるのはとても意味のあることだと思うので、このような機会を頂き、とても感謝しています。

原)早速ですが、工場で働いているメンバーの全体像を教えていただけますか。

ア)はい。この工場では、300名以上のメンバーが働いており、その内の約40%が女性となります。そして、働いているメンバーには、大きく分けて7つのポジションがあります。

採用されて、最初につくのが、「ヘルパー」と呼ばれるポジションです。 若いメンバーや、働いた経験がないメンバーは、まずはここからスタートしてもらいます。

「ヘルパー」には、製造ラインの中でも、のり付けなどの比較的簡単な組み立てを担当してもらいます。 そして、より高い技術を必要とする「セミオペレーター」「オペレーター」と続きます。構成比は、約50%、25%、15%です。

つまり、この工場では、全メンバーの約半数が、「ヘルパー」ポジションで働いていることになります。 さらにその先には、ラインをまとめる「アシスタントスーパーバイザー」「スーパーバイザー」がいます。

その後は、「アシスタントプロダクションマネージャー」「プロダクションマネージャー」で、彼らがマネジメントチームとして、工場運営に携わっています。

「ヒト」の採用に向き合う

ビジネスレザーファクトリー
工場で働くメンバー

原)メンバーの採用方法について、教えて下さい。

ア)ポジションによって異なるのですが、「ヘルパー」の場合には、特に求人情報を出していません。現在は、求人情報を出さなくとも、色々なところから情報を得た人々が、毎日この工場に職を求めて直接訪ねてきます。

彼ら/彼女らに具体的な面接日程を伝え、改めて工場に来てもらい、面接を行っています。一方で、「オペレーター」以上の場合は、求人情報を出します。インターネット上に求人情報を出したり、周辺のお店にポスターを貼ったりもしていますよ。

原)「ヘルパー」の面接は、どんな方法で行われるのですか。

ア)面接では、特に履歴書などは必要ありません。学歴はもちろんのこと、読み書きができるか、製造の技術のレベルや工場で働いた経験などについても、私たちの工場では採用の重要な指標にはしていないからです。

私たちが何よりも大切にしていることは、彼/彼女にとって「ここで働く理由は何か」、そして「ここで働く必要のある状況か」ということです。

面接を受けにくる人々は、経済的にとても苦しく、そのほとんどが社会的・経済的に恵まれていないのが現状です。そこで、面接では彼/彼女の現在の生活、出身地、家族の状況などを確認しています。

面接にくるのは19~20歳の若い人が多いのですが、その中には様々な事情から、学校を途中で辞めざるを得なかった人も多くいます。

面接では、将来の計画や、夢についても話してもらうことにしています。その実現のために、「なぜ私たちの工場で働きたいのか。」ということを確認するためです。

「生きる自信」「夢や未来」を提供する

ビジネスレザーファクトリー
工場で働くメンバー

原)他社の工場との違いは何だと思いますか。

ア)まず大前提として他社の工場と大きく異なることは、”社会的・経済的に恵まれていない人々を積極的に雇用していること”です。その上で3つ、この工場の特徴をご紹介します。

1つ目は、「教育を受けていないから」、「働いた経験がないから」などの理由で、社会から救われない人々を受け入れていることです。残念ながら、他社の工場ではそれらを理由に採用されないことが多々あります。

しかし、ここではそういった理由は重要視せず、「人として」彼ら/彼女らとしっかりと面接を行い、その上で採用を判断しています。

2つ目は、マネジメントチームのメンバーに対する“行動”です。この工場のマネジメントチームのメンバーは、共に働く工場のメンバーに対して、差別的な言葉は絶対に使ってはならないということが決められています。また、他の工場では有り得る性別による差別や、暴力的な処罰などもこの工場では一切ありません。

最後に、工場のメンバーに対して、”学ぶための機会を積極的に提供していること”だと思います。
この工場で働く過程で、彼ら/彼女ら自身に、「生きる自信」(confidence)を持ってもらうこと、そして「夢や未来」(dream and future)を描いてもらうことが、とても重要なことだと考えています。

“未来を描く”仕事場

ビジネスレザーファクトリー
作業風景

原)これまで採用をされていた中で、印象に残っているエピソードなどはありますか。

ア)はい。一つ目は、ある女性のエピソードです。私が入社する前に前任者が採用した方ですが、印象的なエピソードなので、ここで紹介したいと思います。

彼女はここで働く前にある男性と結婚をしたのですが、その後旦那さんがドラック依存症になってしまいました。旦那さんと別れることがとても難しかったようですが、彼女は奇跡的にわかれることができました。

しかし、その後の生計をどのように立てていけば良いのか、全く分からなかったそうです。また、彼女には当時1歳になったばかりの子どもがおり、女手一つで育てなければいけない状況になってしまいました。

バングラデシュでは、女性が子どもを一人で育てるのは簡単なことではありません。 彼女はもともと貧しい家庭に育ち、栄養が十分に取れなかったことから、身体があまり強くありませんでした。他の工場にも面接を受けにいったのですが、身体が弱いという理由から、断られ続けたそうです。

そんな中、彼女はこの工場に「働きたい。」とやって来ました。面接で彼女の話を聞き、彼女が今、とても仕事を必要としている状況であることがよく理解できました。

彼女の身体的な脆弱さだけに焦点をあてるのではなく、「人」として話し、状況を聞き、採用を決めました。それから1年以上経ちますが、彼女は現在もここで働いています。

そして今では自分の力で子どもを養うことが出来るようになり、「自分に自信を持つことができた。」と話しています。

もう一つ、心に残っている女性のエピソードがあります。その彼女には、材木関係のビジネスを行う旦那さんと、3人の子どもさんがいました。彼女たちは、もともとバングラデシュの北部に住んでいたのですが、そこで大きなサイクロンの被害を受けました。

たった一晩で、家族の10人以上を失ったそうです。また、サイクロンの被害によって旦那さんは職を失い、家族とともに首都ダッカに避難をしました。 ダッカに来たものの、一家は仕事も見つからず、明日からどのように生きていくか分からない状態になってしまいました。

そんな中、どこからかこの工場のことを知り、彼女は面接を受けにきました。私はその状況を聞き、すぐに採用を決めました。その後、息子さんもここで働くようになりました。

現在、彼女は病気のため働いていませんが、体調がよくなったらぜひまた工場に戻ってきて欲しいなと思っています。息子さんも今は別の場所で働いていますが、ここで働いた経験のおかげで、生計を立てる方法が分かり、自信がついたと聞いています。

原)アミンさん、工場の採用状況がよくわかりました。ありがとうございます。ちなみに、アミンさんは前職ではどのようなお仕事をされていたのですか。

ア)バングラデシュ最大の国際NGO「BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)」が運営する「BRAC University」で、学生寮のマネジメントをしていました。

前職も、今の仕事も、夢を持った人たちのサポートをするという点では同じであり、そこにとてもやりがいを感じています。 ここで働く人たちが、自信を持って将来の夢を実現するために、これからも全力でサポートをしていきたいと思っています。

原)この工場には、色んなバッググラウンドを持って働いているメンバーがいるのですね。働くことで、未来を描けるようになる人たちを、これからもっと増やしていけるよう、私ももっと頑張らねば…と身の引き締まる思いです。今日はありがとうございました。

アミヌル・イスラム(Aminul Islam)

ビジネスレザーファクトリー

1979年生まれ。ジャガナート大学(Jagganath University)会計学修士課程、ダッカ大学国際ビジネス修士課程修了。

卒業後、民間企業で経理を担当、その後2011年からバングラデシュ最大の国際NGO「BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)」が運営する「BRAC University」にて学生寮のマネジメントを担当し、学生に対するオリエンテーションや、職員の採用、研修に携わる。

2015年10月より、Borderless Japan Corporationに入社。採用や人材配置、賃金管理などの人事管理、福利厚生などの労使管理等、人事労務管理全般を担当している。